補習校について本当に知っていますか?ー行く?行かない?を考える前に知っておきたいこと

教育関連一般

はじめに

通学可能範囲内に補習授業校(以下補習校)がある場合、お世話になっていらっしゃるご家庭が多いかと思います。

正しい日本語で日本の教科を学べる

多くの日本人の友人ができ子供も親も安心し楽しく過ごせる

外国にいながら日本の心や文化を大切にできる

海外駐在員、ならびに日本にルーツを持ちその地に永住する方にとっては非常にありがたく身近な存在であると思います。

一方で、宿題がどっさり出て大変、役員やボランティア、人間関係が煩わしいなどといったこともちらほら聞こえます。

この記事ではそういった視点からではなく、補習校の成り立ちや現状を様々な資料をもとに見ていき、その将来像を考えてみたいと思っています。

在留邦人子女数と日本人学校、補習校に通う児童数

ここで一つある数字をお見せしたいと思います。

外務省では「海外在留邦人数調査統計」というものを毎年作成しています。

下記はその統計より海外在留邦人子女数の2008年と2018年を比較した表になります。

小・中学生合算 2008年 2018年 増減率
日本人学校在籍者 19,340人 19,418人 ▲7%
補習校在籍者 16,754人 22,051人 △o.19%
現地校・インターなど 25,158人 42,784人 △11.6%
合計人数 64,252人 84,253人

海外志向がくっきり

日本人学校在籍者数をご覧ください。

この10年間でマイナス7%です。一方で現地校やインターナショナルスクールなどの在外教育施設の在籍者は約12%も増加しています。これは日本人学校のある地域に在留邦人が増えておらずそれ以外の地域に増加している、といったケースもあり得ますので一概には言えませんがこの数字のみでとらえるとすれば日本人学校よりも在外教育施設を選択する家庭が増えていると言えます。

では補習校在籍者数はどうか。

これも上記の逆のケース、補習校のあるエリアに在留邦人が増えている、といった事が考えられますので実情は少し異なる可能性はあるものの、補習校に関して言えば微増、ほぼ横ばいです。

海外の学校生活を経験させたいけれど日本帰国後の事も考えて補習校には通おう

そう考えている家庭が多いという事ではないかと思います。

在住邦人・日本人駐在員にとって昔からなじみの深い補習校について、今回は改めてその存在意義そして今後の姿を考えていきたいと思います。

実は色々と新しい試みが始まっているんですよ!

補習校設立の目的

補習校とは

・現地校に通学する児童生徒が再び日本国内の学校に編入した際にスムーズに適応できるよう基幹教科の基礎的基本的知識・技能および日本の学校文化を日本語によって学習する教育施設である

補習校の目的と方法

目的:再び日本の学校で勉強するための学習と生活の基礎基本を身に着けること。
方法:①全員の積極的な参加で授業が成り立つこと。
家庭学習と教室学習とが統合されて学習目標が達成されること。

教室学習と家庭学習の関係

1.補習授業校では、教室学習と家庭学習とが五分五分の重要さをもっている。学習の進行に係わる。このことを理解して臨むのが補習授業校の学習集団の一員としての前提条件である。
2.復習の励行・家庭学習の習慣化・宿題や提出物の期限厳守は、補習授業校の一員としての務めである。
3.運営委員会・校長・担任は、保護者と児童生徒に対し、それぞれ担当する機会にこのことを周知する必要がある。
《家庭は第二の教室、保護者は第二の担任》

文科省HPより、重要と思われる部分を抜粋しました。

―以上の内容から日本に帰国する児童生徒の教育を目的として設立されているということ、家庭学習を非常に重んじていることが読み取れます。

補習校の現状

補習校は1958年米国ワシントンに初めて設立され、2015年時点において正解52か国
1地域全205校あり、のべ二万人の児童が学んでいます。

先にも述べた通り補習校は日本に帰国する子供たちが日本の学校に溶け込めることを大きな目的としています。

その一方で在籍する生徒のバックグラウンドについては多様化してきています。
以下はアメリカの例ですが、数字から子供たちの多様性がうかがわれます。

・出生地はどこか?
日本 52%  日本以外 48%
・日本への帰国予定はあるか?
帰国予定 44%  アメリカに永住予定 20%  わからない 36%

また、全体の35%は日本居住経験が無いと答えています。

アンケート引用元:海外子女教育 2018年7月号より

このことから補習校の設置目的と現状との乖離が見られることがわかるでしょう。

授業を進めるうえで前提となる日本語力にもばらつきがうまれ、また補習校に求めるものもそれぞれ異なります。
帰国予定者は学齢相当の日本語力を前提に学力向上を図りたい、帰国予定の無い家庭は日本語に親しみ、会話力を中心に日本語力を伸ばしたいというニーズがあります。

動き始める新しい取り組み

そうした補習校や日本を取り巻く状況の変化を踏まえ、文科省が推進しているプロジェクトがあります。

それが”AG5” です。

AG5(エージーファイブ)とは、公益財団法人海外子女教育振興財団が文部科学省より受託いたしました「平成29年度在外教育施設の高度グローバル人材育成拠点事業」(事業の趣旨は下記のとおり)のことで、高度な(Advanced)グローバル人材(Global human resources)の育成を目的として5つの研究テーマを取り扱うことから「AG5」と名付けたものです。

その5つの研究テーマはは以下となります

①日本人学校における高度グローバル人材の基礎的資質形成のためのプログラム開発

②日本人学校における日本語教育プログラム開発

③日本人学校における教員(学校採用教員)の指導力向上のためのプログラム開発

④補習授業校における日本語能力向上のための総合的なプログラム開発

⑤日本文化発信の拠点形成プログラム開発

引用元:AG5HPよりhttps://ag-5.jp/

5つあるプロジェクトの柱の1つが補習校についての物。

―補習授業校における日本語能力向上のための総合的なプログラム開発

これはまさに補習校在校生の多様性の進行によるニーズの変化を受けたものでしょう。
また、プロジェクト推進メンバーの一人である奈良教育大学の渋谷真樹教授は
「週にたった一回しかない補習授業校で、日本の学校と全く同じカリキュラムをこなすことは不可能であることは周知の事実」、「その不可能に挑むよりも補習校だからこそできるグローバルな学びへと転換していきたい」と述べておられました。

補習校を足りないものを補う、日本と同じ授業を受けるための場所から、グローバル人材育成の場へとシフトさせていくプロジェクトが今まさに推進されています。

次の記事ではその国家プロジェクトを受け変わろうとする補習校の姿について見てみたいと思います。

コメント