今では信じられませんが1960年代まではバイリンガルに対してネガティブな捉え方をするのが主流でした。
二つの言葉が共存することは無理、子供の学習能力を二分化してしまうので全体のレベルが下がる、と考えられていたためです。
更には二つの言語を同時に伸ばそうとすると情緒不安定、学力低下、言語混同につながると考えられていました。
しかし、バイリンガルへの研究が進むにつれてどうもそうではないらしいという研究結果が現れてきました。そして現在はそのような認識は過去のものとなりました。
カミンズによる二言語共有説
この【二言語共有説】というのは母語と第二言語は基礎、認知力・読解力・論理構成といった思考と関係が深い部分を共有している、という説です。
わかりやすく言うと、物事を考えたり論理的思考が必要な場面において母語と第二言語は相互補完関係にありどちらの言葉で学んでも両方の言葉の学習にその知識を利用できる、というものです。
バイリンガル先進国カナダでの研究
上記の【二言語共有説】はカナダで行われた研究です。
カナダその国の成り立ちの必要性から二言語・多言語教育の先進国です。
フランス・イギリスの入植に始まり多民族国家であるカナダにおいて言語教育は国家を統一するための大きな課題であったため早くから二言語・多言語教育の研究が行われていたのです。
今よく聞かれるようになった【イマージョン方式】もカナダが発祥です。
イマージョン方式というのは、学校教育の場に置いて一年間に少なくとも指導の50%を第二言語を通して指導するプログラム、と定義されています。
そのカナダにおいてイマージョン方式で行われた授業を受けても、長期スパンで見るとそのせいで学力の低下は認められず、むしろ二つの言葉がよく発達した場合には母語や思考力の発達にプラスに作用するという結果が出ています。
この研究結果を踏まえて考えると、学齢期に海外に出て日本にまた帰国するという学習言語が変わってしまう海外駐在員の子女にとっては母語である日本語と第二言語を両方しっかり伸ばしてやることは大きなプラスと言えます。
バイリンガルに育つことのメリット
柔軟な思考
バイリンガルとモノリンガル(一言語使用者)を対象に思考スタイルに焦点を当てたテストを行うと、多くの場合においてバイリンガルの子供の方がユニークかつ思考に広がりのある答えが見られるという結果が得られたそうです。
バイリンガルはマルチな考え方ができるようになる傾向がある、と言えます!
情報へのアクセス量
これは非常に大きなメリットと言えます。
というのも、インターネットの世界において日本語が使用されているのはたったの3%なのです。
もう一言語できれアクセスできる情報量がグーンと増えます。
例えば英語であれば26%です。
日本語に加え英語が理解できればインターネット上の約3割の情報にアクセスできるということになります。
また、同じトピックでも背景の違う人が書いたものだとまた違う解釈がなされています。
そして真実も見る人によって変わってきます。
様々な視点を得られるという意味でも多くの情報にアクセスできるということは大きなメリットと言えます。
寛容さ、言葉に対する感度
海外で生活する子供たちが外国語を習得していく過程において、学んでいるのは当然ながら言葉だけではありません。
両方のコミュニケーション作法の違いも同時に学んでいます。
日本語ー相手との人間関係により変容する言語。
英語ー自分の意見を伝えることを重視した言語。
海外で暮らす子供達は会話する相手がどんな人なのか何を求められているのかを察知し応えるという高度なコミュニケーションを日常生活で常に行っています。「言葉を選ぶ」という作業を無意識に行っていくうちに言葉への理解が深まり言葉に対する勘が磨かれていきます。
他にも
・高度な異文化理解
・社会的態度が柔軟になる
など様々あると言われています。
ただし、このような効果が見られるのは母語・外国語共に高度なレベルである場合のみと考えられています。子供の中に両方がどれぐらいのレベルでどれだけ深く根をおろしているかで違ってきます。
海外で現地語で学習する子供たちは程度の違いはありますが、このようなプラスの種をすでに持っています。それを今後どう伸ばしていくか、親がしっかり考えることが必要であると考えます。
親にできるバイリンガルの基礎作り
子供は見ているー認めて応援する姿勢
親のちょっとした表情の変化や物事への考え方。
子どもたちは敏感に感じ取っています。びっくりすほどよく見て捉えています。
もし親が自分たちの住んでいる国や地域に対しての興味が希薄だったり、同じ日本人としか付き合わないといった態度だと子供はどう感じるでしょうか。
自分が積極的に現地のお友達と交わると親に背いているような気がしてしまうかもしれません。
とはいえ、筆者の知る限り周りの駐在員の方々は皆さん学校や地域のボランティアをしたり子供の現地校のお友達と遊んだり何かのイベントに参加したり、と積極的にその国・地域と接点を持とうとされています。
もし気後れしてしまったり人と付き合うことが苦手であれば無理をする必要は全くありません!
子供のことを応援しているよ!という姿勢を見せることが何より大事と思います。
積極的に交わる子供を認めて励まし応援するときっとさらに自信をもって現地のお友達の輪に入り込んでいくのではないでしょうか。
現地の生活を楽しむ
とはいえ、親が積極的に現地の生活を楽しみ、現地の生活に触れられる環境を作ることが大きな助けとなるのは事実です。美術館のワークショップに参加する、スポーツクラブに所属する、ボランティア活動に家族で参加する、など様々な方法があります。
何か子供に得意な事や好きな事があればそれをとことんやってみても良いと思います。
筆者の知人で子供にチェスの才があり、駐在中様々な大会に出てさらには海外遠征までして大活躍していた子もおりました。
母と子、父と子、家族全員、本人のみ、様々なやりかたがあると思います。
ぜひご家族皆様で何をやってみたいか相談してみてください。
家庭では母語である日本語をしっかり守る
成長に伴い言葉への理解が深まり語彙が増えていかいかないと自分の考え、感情を伝えることができません。これは大きなストレスになります。
日本から海外にやってきて外国語は日本語に引き上げられて少しずつ伸びていきます。
ところが英語がまだ日本語に比べて未熟な段階で日本語の成長が止まってしまう、忘れてしまうとなると自分の考えを深めていくことができません。深く感動したりということもできなくなってしまいます。
早く現地の生活や学校に慣れさせてあげたいという親心から家庭内でも英語で会話をしよう、と考えるかもしれませんが、それは長期的に考えてあまりプラスにはなりません。
親自身がバイリンガルなら話は別ですが、外国語が不得手であれば親子の会話が乏しいものになってしまいます。
家庭では親の自信のある言葉を使用するというのはとても大切なことです!
バイリンガルに育つことはプラスの面が多いことをおわかり頂けたと思います。
今後、バイリンガルと異文化理解についても触れてみようと思っています!
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